大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)3179号 判決 1990年7月23日

原告 堀江俊彦

右訴訟代理人弁護士 木村達也

右同 阪口春男

右同 島川勝

右同 田中義信

右同 辻野和一

右同 伴純之介

右同 福居和廣

右同 藤田裕一

右同 松井元

右同 森信静治

右同 山口健一

被告 シャープファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 土屋誠治

右訴訟代理人弁護士 西本剛

右同 中山晴久

右同 石井通洋

右同 高坂敬三

右同 夏住要一郎

右同 間石成人

被告 株式会社信用情報センター

右代表者代表取締役 川島喜八郎

右訴訟代理人弁護士 三好徹

右同 吉田哲

右同 江川清

右同 平出一栄

主文

一  被告シャープファイナンス株式会社は、原告に対し、一一万円及びこのうち一〇万円に対する平成元年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告シャープファイナンス株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社信用情報センターに対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇〇分の一と被告シャープファイナンスに生じた費用の五〇分の一を被告シャープファイナンス株式会社の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告株式会社信用情報センターに生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、五五〇万円及びこのうち五〇〇万円に対する平成元年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告

原告は、大手自動車販売会社に勤務する者で、収入も安定しており、資産、負債関係において信用上何ら問題のない一般消費者である。

(二) 被告シャープファイナンス株式会社(以下「被告シャープファイナンス」という。)

被告シャープファイナンスは、家電系クレジット会社であり、主にシャープ製家庭電気製品の購入者に対し購入代金の融資を行うことを業としている株式会社である。

被告シャープファイナンスは、後記株式会社日本信用情報センターの会員であったもので、被告株式会社信用情報センター(以下「被告信用情報センター」という。)設立後は同社の会員となって自己の顧客に対する情報を同社に提供して同社の情報収集に寄与している。

(三) 被告信用情報センター

被告信用情報センターは、昭和五九年九月二七日、通産省の指導により、社団法人日本クレジット産業協会、社団法人全国信販協会、株式会社日本信用情報センターの三団体がそれぞれ八〇〇〇万円の出資をして設立された株式会社であり、会員の有する情報を収集管理し、これを各会員に提供することをその業としている。

2  本件事故情報登録の経緯

(一) 原告は、昭和五八年六月一〇日、訴外東栄電気空調から、ビデオデッキを買い、右売買代金支払につき、左記の方法で、被告シャープファイナンスから融資を受けた(以下「前回のクレジット契約」という。)。

頭金三万円は即日支払う。

残金一二万五〇〇〇円については、割賦手数料一万六九〇〇円との合計額一四万一九〇〇円を、昭和五八年七月から五九年六月まで一二回に分割して、毎月三日に、一万一八〇〇円(但し第一回目の昭和五八年七月三日のみ一万二一〇〇円)を原告名義の預金口座から被告シャープファイナンスの預金口座へ振替で支払う。

(二) 第二回目から第一一回目までの一一回分の支払いについては、右(一)の約定に従って、口座振替の実行により支払いがなされたが、第一回目の昭和五八年七月三日の一万二一〇〇円の支払については、被告シャープファイナンスの従業員による社内処理の手違いにより、口座振替による支払いがされなかった。

(三) 被告シャープファイナンスは、昭和五九年七月三日に、第一回分割払金一万二一〇〇円を、原告に無断で、口座振替がされるよう手続をし、同日、右金員を原告名義の預金口座から口座振替の方法で受け取った。

(四) 被告シャープファイナンスは、昭和六一年六月、被告信用情報センターに対し、原告からの分割払金の回収に関する事項について、被告信用情報センターの定める異動情報(いわゆるブラック情報)のうちの延滞後完済(被告信用情報センターでは三か月分以上連続して延滞し、後に完済された場合と定めている。)として、誤って情報報告した(以下「本件誤情報」という。)。

(五) 被告信用情報センターは、被告シャープファイナンスから報告された右(四)の情報の正確性を調査せずにコンピューターに入力し、昭和六一年一〇月三〇日まで本件誤情報を保有した。

3  本件誤情報の判明及びその後の経過

(一) 原告の妻が昭和六一年一〇月一〇日、原告の子供の友人の親三、四名と同じ種類の電子カーペット(現金価格三万一五〇〇円)を買う際、被告シャープファイナンスのクレジット契約を原告名義で申し込んだ(以下「本件クレジット契約の申込」という。)ところ、昭和六一年一〇月一四日ころ、被告シャープファイナンスから原告宅に本件クレジット契約の申込を承諾しない旨の文書が郵送されてきた。

(二) 被告シャープファイナンスが本件クレジット契約の申込を拒否した理由は、昭和六一年一〇月一四日、被告信用情報センターから、原告の信用情報の提供を受けたところ、2(四)に記載したとおりの延滞後完済の情報が存したからであった。

(三) 昭和六一年一〇月三〇日、本件誤情報は抹消された。

4  被告らの責任

(一) 被告シャープファイナンスの責任

(1) 債務不履行責任

被告シャープファイナンスは、原告と前回のクレジット契約を締結したのであるから、原告に関する信用情報について適正な取扱をなし情報自体の誤りや情報の取扱についての誤りがないように維持管理すべき契約上、あるいは信義則上の義務を負っているのに、これを怠り、また、前回のクレジット契約に基づき、約定の期日に原告の預金口座から被告シャープファイナンスの預金口座へ口座振替をすべきであったのに、前記のとおりこれをしなかったばかりか、被告シャープファイナンスの口座振替上の手違いを被告信用情報センターの定める基準に該当しない延滞後完済との異動情報として被告信用情報センターに誤って情報報告したため、原告に損害を発生させた。

(2) 不法行為責任

被告シャープファイナンスは、その従業員が業務の執行として、前記のとおり、前回のクレジット契約に基づき昭和五八年七月三日、原告の預金口座から被告シャープファイナンスの預金口座へ第一回分割払金一万二一〇〇円の振替がされるように正確に社内処理をなすべきであったのに、これを怠り、口座振替しなかった上に、昭和五九年七月三日以前に第一回分割払金の口座振替が社内処理の手違いでされていないことに気付いたのであるからこれを原告に報告し、原告の承諾を得て第一回分割払金の支払いを受ける手続を取るべきであったのに、これをせず、原告に無断で、昭和五九年七月三日に右分割払金の口座振替の手続をしてこれを受け取り、更に、原告信用情報を信用情報機関(以下「機関」という。)に登録して第三者に利用させるには原告の同意が必要であるのに、原告から、被告信用情報センターに情報報告することの同意を得ず、かつ、原告に何ら延滞後完済の事実がないことを知っていたか、あるいは極めてわずかな注意をすればこれを知り得たのにその調査を怠り、本件誤情報を被告信用情報センターに報告し、昭和六一年一〇月三〇日ころまで保有させたことにより、原告に損害を生じさせた。

(二) 被告信用情報センターの不法行為責任

被告信用情報センターは、消費者信用情報について、当該消費者に不利益な情報を登録した場合には、当該消費者に対して通知を発する信義則上あるいは条理上の義務があるにもかかわらず、これに違反し、漫然とこれを放置した過失により、原告に関する本件誤情報を長らく登録保管したため、原告に損害を生じさせた。

(三) 被告シャープファイナンスと被告信用情報センターの連帯責任

(1) 民法七一九条一項による連帯責任

被告シャープファイナンスの情報報告行為と被告信用情報センターの情報登録・提供行為との間には、行為の客観的関連共同性があるから、被告両名は、民法七一九条一項により連帯責任を負う。

(2) システム責任による連帯責任

被告シャープファイナンスと被告信用情報センターとの間には、後述のような、信用情報システムとしての一体性、消費者から見た一体性、構成的一体性が存し、この中で、被告信用情報センターは、信用情報システムを中心となって統治・運営し、しかも公共的役割を負っているのであるから、信用情報システムが正常に機能しなくなった場合には、その責任を負わねばならない。

ア 信用情報システムとしての一体性

被告信用情報センターは、加盟会員である個々の与信業者が与信に際して消費者の信用状態を把握するために他の与信業者にしなければならない照会業務を肩代わりするものであり、被告信用情報センターがネットワークの中心となって、消費者の信用情報を共同所有、相互利用している関係と言える。

イ 消費者から見た一体性

信用情報システムにおいて、消費者は、被告両名を一体のものと意識している。

ウ 構成的一体性

被告信用情報センターは、株主構成、加盟会員、役員構成の観点からみて、被告シャープファイナンス等の与信業者と構成的一体性がある。

5  原告の損害

(一) 慰謝料 五〇〇万円

原告の妻が、原告の子供の友人の親三、四名と一緒に同じ種類の電子カーペットを買う際、被告シャープファイナンスに対し、原告名義でクレジット契約を申し込んだところ、原告一人がこれを断られ、一緒に申込みをした者に対し、いかにも原告の経済状態が劣悪であるような印象を与えることになり、大きな精神的苦痛を受け、また、長期間本件誤情報が被告信用情報センターに登録保管されて第三者に右誤情報が流された可能性があったことに大きな不安を抱いた。更に、本件誤情報が発覚した後の被告シャープファイナンスの対応の悪さ(本件誤情報発覚から抹消まで約半月の期間を要したこと、原告の真摯な謝罪広告の要求を軽くあしらったことなど)から強い屈辱感を味わった。以上の事情から、本件誤情報に基づく融資の拒否によって原告が受けた精神的苦痛を慰謝するには五〇〇万円が相当である。

(二) 弁護士費用 五〇万円

6  よって、原告は、被告シャープファイナンスに対し債務不履行による損害賠償請求権あるいは不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告信用情報センターに対し、不法行為による損害賠償請求権あるいはシステム責任に基づき、5(一)、(二)の損害金合計五五〇万円及びこのうち五〇〇万円に対する訴えの変更申立書送達の翌日あるいは不法行為後の平成元年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告シャープファイナンス)

1 請求原因1(一)の事実は知らない。

同1(二)、(三)の事実は認める。

2 同2の各事実は認める。

3 同3の各事実は認める。

4 請求原因4、5の主張は争う。

(被告信用情報センター)

1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が大手自動車会社に勤務する者であることは認め、その余は知らない。

同1(二)、(三)の各事実は認める。

2 同2(一)の事実は認める。

同2(二)の事実のうち、口座振替がされなかった原因は知らないが、その余は認める。

同2(三)の事実は知らない。

同2(四)の事実は認める。

同2(五)の事実のうち、本件誤情報を昭和六一年一〇月三〇日まで保有したことは認め、その余は知らない。

3 同3(一)の事実は認める。

同3(二)の事実は知らない。

同3(三)の事実は認める。

4 同4(二)の主張について通知義務の存在を争う。

同4(三)の主張は争う。

5 同5の主張は争う。

三  被告らの主張

(被告シャープファイナンス)

1 本件クレジット契約申込拒絶後の原告と被告シャープファイナンスとの交渉の経過

(一) 原告は、昭和六一年一〇月二二日、二名を同道して被告シャープファイナンス大阪支店を来訪し、本件クレジット契約の申込拒絶の理由の開示を求めた。

これに対し、被告シャープファイナンス大阪支店審査課長井家上(以下「井家上」という。)が、原告のクレジット利用歴から判断して本件クレジット契約申込を辞退したことを説明したところ、原告は、昭和五八、九年当時の預金通帳を示して、前回のクレジット契約の債務は完済されているのに、被告シャープファイナンスが被告信用情報センターに誤情報を登録した旨述べ、登録情報の抹消と謝罪を要求した。

(二) 同月二三日、井家上が原告宅に電話をし、同月二四日午前一〇時に新大阪駅前共済会館ホテルロビーで会うことにした。

(三) 同月二四日、被告シャープファイナンスの審査部長滝本(以下「滝本」という。)、井家上は、同所で、原告とその同道者山本に会い、滝本が、原告に対し、誤って被告信用情報センターに延滞後完済として登録していたこと、登録抹消の手続をとっていることを説明し、謝罪したところ、山本が信用失墜を理由に新聞に謝罪広告を掲載することを要求した。

滝本が右要求を拒絶すると、山本が謝罪広告の掲載ができないのならそれ相応の誠意を示せと要求したので、滝本は、検討の上回答することを約束した。

(四) 滝本は、同月三〇日、原告に対し、電話で、謝罪の意味で原告が申し込んだ電子カーペットを無償で進呈したい旨申し出たところ、原告はこの申出を失礼であると非難し、全国紙に謝罪広告を掲載することを要求し、これに応じられないのならしかるべき対応をするよう要求した。

(五) そこで、同日夜、被告シャープファイナンス大阪支店次長上田が、原告に対し、電話で、本件誤情報の登録を謝り、(四)記載の電子カーペット進呈の申入れの了解を求めたが、原告は以前どおりの要求を繰り返すのみであった。

上田が、原告に、全国紙の広告掲載料が多額に上ることを説明すると、原告は、近畿版二紙でよいと譲歩し、これに応じられないのであれば、その掲載料に見合う誠意を示すよう要求した。

上田が原告のいう誠意とは何か尋ねたところ、原告は、追って連絡すると言ったが、原告から何の申し出もなかった。

2 損害について

(一) 被告シャープファイナンスは、封書で本件クレジット契約申込拒絶の通知を行っており、右通知が他に知られることはない。

(二) 本件誤情報が被告信用情報センターに登録されてから抹消されるまでの期間は四か月であり、この間、本件誤情報を入手、利用した者は誰もいなかった。

(三) 被告シャープファイナンスは、前記のとおり、原告に対し、謝罪し、誠意を尽くして対応して来た。

(四) 以上の事実からすると、原告には何ら実損はない。

(被告信用情報センター)

1 困果関係の不存在

本件誤情報は、被告シャープファイナンスから被告信用情報センターに提供された情報であり、被告シャープファイナンスにおいても独自に顧客の信用情報として登録されていたはずのものであるから、被告シャープファイナンスは、被告信用情報センターに照会しなくても、本件クレジット契約の申込みを拒絶した可能性がある。

2 損害について

(一) 本件クレジット契約の申込み拒絶は、封書によりなされており、原告自身が積極的に第三者に告知しない限り、契約を拒絶されたことは外部に伝達しないはずである。

(二) 原告は、被告信用情報センターの会員であるトヨタカローラ新大阪の西淀営業所所長で、消費者というより被告信用情報センターの登録情報を利用する立場にある者であり、被告信用情報センターの登録情報が本人の与信申込があった場合に会員または他の機関の会員のみが利用できるものであることを熟知しているから、本件誤情報が第三者に流された可能性について大きな不安を抱くことはあり得ない。

(三) 以上の事実から、原告には精神的損害は存在しない。

第三証拠《省略》

理由

一1  請求原因1(一)の事実は、《証拠省略》によれば、認めることができる。

2  同1(二)、(三)の各事実は、各当事者間に争いがない。

二1  同2(一)の事実は、各当事者間に争いがない。

2  同2(二)の事実は、原告と被告シャープファイナンスとの間では争いがなく、被告信用情報センターとの間においても、前回のクレジット契約の支払いについて、第二回目から第一一回目までの分割払金の支払は約定どおりされたが、第一回分割払金が支払われなかったことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右第一回分割払金が支払われなかったのは、被告シャープファイナンスの従業員の社内処理の手違いにより口座振替がされなかったためであることが認められる。

3  請求原因2(三)の事実は、原告と被告シャープファイナンスとの間では争いがなく、原告と被告信用情報センターとの間においても、《証拠省略》によれば、認めることができる。

4  同2(四)の事実は、各当事者間に争いがない。

5  同2(五)の事実は、原告と被告シャープファイナンスとの間では争いがなく、原告と被告信用情報センターとの間においても、被告信用情報センターが本件誤情報を昭和六一年一〇月三〇日まで保有したことは争いがなく、《証拠省略》によれば、被告シャープファイナンスから報告された本件誤情報について、その正確性について特段の調査をせずにコンピューターに入力したことが認められる。

三1  請求原因3(一)の事実は、各当事者間に争いがない。

2  同3(二)の事実は、原告と被告シャープファイナンスとの間では争いがなく、原告と被告信用情報センターとの間においても、《証拠省略》によれば、認めることができる。

3  同3(三)の事実は、各当事者間に争いがない。

四  被告シャープファイナンスの責任について

《証拠省略》によれば、前回のクレジット契約書の裏面に記載されている預金口座振替契約条項第一六条に、「本契約により発生した客観的な取引事実に基づく信用情報を貴社が加盟する信用情報機関に登録し、当該信用情報機関の加盟会員により、自己の取引判断のためその情報が利用されることに同意します。」という規定が存在し、前回のクレジット契約において、原告は被告シャープファイナンスが前回のクレジット契約より生じた取引事実に基づく信用情報を被告信用情報センターに提供し、被告信用情報センターの加盟会員によりその情報を利用させることを承諾していたことが認められる。

してみると、被告シャープファイナンスが前回のクレジット契約に基づく原告の正確な信用情報を被告信用情報センターに提供する限り、何ら違法ではない。

しかし、被告シャープファイナンスは、被告信用情報センターに原告の信用情報を提供するに当たり、信義則上、前回のクレジット契約に付随して、正確を期し、誤った情報を提供するなどして原告の信用を損なわないように配慮すべき保護義務があり、この保護義務に違反すれば、債務不履行(不完全履行)責任を負うと解するのが相当である。

そして、二、三で検討したところによると、被告シャープファイナンスが前回のクレジット契約において、従業員の手違いで、昭和五八年七月五日に第一回分割払金の口座振替がされるように社内処理をせず、昭和五九年七月三日に原告に無断で口座振替の手続を取って右分割払金を受け取ったことが、被告信用情報センターの規定する延滞後完済に当たらないのに、被告シャープファイナンスは、原告に延滞後完済の事実があったとの本件誤情報を被告信用情報センターに報告して原告の信用を損ない、その後本件クレジット契約申込みに際し、被告信用情報センターから右延滞後完済の情報の提供を受け、右申込みを断ったのであるから、前回のクレジット契約について、被告シャープファイナンスに、前記保護義務違反の債務不履行責任がある。

五  被告信用情報センターの責任について

1  不法行為責任について

《証拠省略》によれば、近年、消費者信用が著しく普及、拡大してきたため、過剰与信を予防するため、消費者信用情報機関の統合・連携が進められ、販売信用の分野においては被告信用情報センターが昭和五九年九月二七日に設立されて昭和六〇年四月から営業を開始し、消費者金融の分野においては全国銀行協会連合会(以下「全銀協」という。)の個人信用情報センター、全国信用情報センター連合会、株式会社セントラルコミュニケーションビューローが運営されており、販売信用と消費者金融との間の消費者信用情報の相互交流も行われていること、被告信用情報センターは、昭和六二年一〇月末で三一〇〇万件、このうち事故情報は約四〇〇万件保有していること、毎月消費者に約七五〇件情報開示するうちの約三パーセントが誤情報であること、昭和六〇年四月に経済企画庁の消費者信用適正化研究会が、消費者信用情報保護のために報告された消費者信用情報のうち消費者にとって不利益なものについて、機関等が登録後直ちに消費者にその旨通知すべきである旨の報告をしたこと、全銀協個人信用情報センターでは昭和五六年から事故情報が登録された時に消費者に通知していること、昭和六一年三月四日に通商産業省産業政策局長と大蔵省銀行局長がそれぞれ事故情報が登録される場合は何らかの方法により、消費者がこれを知り得るよう、機関と会員との間で、その業務運営の実情に配慮しつつ検討を進める必要がある旨の内容が含まれている通達を発したこと、被告信用情報センターは、通産省通達を受けて、通知制度の採用を検討したところ、会員から通知するという会員の声があり、会員から通知する場合、払わなければ被告信用情報センターに通知する旨の文面が脅迫と受け取られないかという問題もあって、会員の全面的な協力を得られるような通知制度を採用するためになお検討中であること、通知の対象となる事故情報が全銀協では、月三〇〇〇件であるのに対し、被告信用情報センターの場合は月三万から八万件と予想されること、被告信用情報センターは、情報の正確性を確保するために、(一) 会員から報告される情報を任意に抽出して被告信用情報センターの定める登録基準に合致しているか確認し、合致しない情報がある場合は一緒に報告された情報すべてを会員に返還して確認させること、(二) 一年に一回長期間登録されている情報を、報告した会員に調査させること、(三) 情報の開示という方法をとっていることが認められる。

以上の事実を総合しても、消費者信用情報について消費者に不利益な情報を登録した場合、被告信用情報センターが当該消費者にその旨通知すべき義務があったとはいえず、他にこの通知義務の存在を認めるに足りる証拠はないから、不法行為責任の主張は理由がない。

2  民法七一九条一項の連帯責任

右1で検討したところによると、被告信用情報センターに消費者に対する情報登録通知義務があるとは認められず、他に、被告信用情報センターの原告に対する不法行為の成立について何らの主張立証がないから、右連帯責任の主張も理由がない。

3  システム責任について

《証拠省略》によれば、信販会社は、消費者から与信の申込があった場合、被告信用情報センターからの信用情報の提供を受けることにより、個々に与信申込者の信用情報を調査する費用と時間を省略できしかも正確な情報の入手が可能となることが認められ、《証拠省略》によれば、シャープクレジット契約書の裏面に記載されている預金口座振替契約条項の中に当該クレジット契約から発生した信用情報を、機関へ登録することに同意する旨の条項が存し、クレジット契約の申込をする消費者からみれば、被告シャープファイナンスと被告信用情報センターが一体のものと受け取られやすいことが認められ、《証拠省略》によれば、被告信用情報センターの一部の取締役等には会員の取締役等が就任していることが認められる。

しかしながら、過失責任を原則とする民法の下では、特別の法律の規定がなければ過失のない者が損害賠償等の責任を負うことがないのであり、本件においても、被告信用情報センターに責任を認める特別の規定がないので、右認定の事実が認められるからといって、本件誤情報を登録したことについて損害賠償義務を負わねばならない謂がなく、システム責任の主張も、採用することができない。

六  損害

被告シャープファイナンスとの関係で、損害について判断する。

1  慰謝料 一〇万円

《証拠省略》によれば、原告は、昭和六一年当時トヨタカローラ新大阪西淀川営業所車両部内次長職営業所長の地位にあり、年収約一〇〇〇万円で、少額の与信取引で問題となるような要素がなかったにもかかわらず、本件クレジット契約の申込を拒絶され、精神的苦痛を受けたことが認められる。

しかし、《証拠省略》によれば、被告信用情報センターに登録されている情報は、本人から与信の申込があった場合に、被告信用情報センターの会員または他の機関の会員のみが利用できるものであるところ、本件誤情報が登録されてから抹消されるまでの間に、本件クレジット契約を申し込んだ他、与信の申込をしていないこと、実際にも本件誤情報の照会は、昭和六一年一〇月一四日に被告シャープファイナンスが本件クレジット契約の申込に対して照会したのを最初として、本件誤情報抹消直後の同年一一月四日までの間に合計一一回されているだけであり、右照会をした者は、被告信用情報センター、被告シャープファイナンス及び原告の勤務しているトヨタカローラ新大阪のみであること、被告信用情報センターによる照会は、本件誤情報の登録を確認するためであり、被告シャープファイナンスによるその後の照会は、原告からの本件誤情報の申出を受けて抹消手続をする際のものであり、トヨタカローラ新大阪による照会は、原告が本件クレジット契約の申込を拒絶された後、本件誤情報が登録されていることを確認するため、同じ勤務先の友人によって同所に設置されている端末機を利用してなされたものであり、いずれも本件誤情報の抹消手続に関連する照会であること、本件誤情報が被告信用情報センターに登録されていた期間は昭和六一年六月から同年一〇月三〇日までの四か月間であり、原告が被告シャープファイナンスに対して本件誤情報が登録されていることを申し出た一〇月二二日から約八日間で抹消されていること、被告シャープファイナンスは、右原告からの申出を受けて、直ちに調査し、本件誤情報の登録を確認するや抹消の手続をとるとともに、原告に対して、本件誤情報を被告信用情報センターに報告したことを謝罪し、原告が申し込んだ電子カーペットを無償で進呈したい旨申し入れたこと、原告は、右被告シャープファイナンスの申し入れを受け入れず、新聞紙上での謝罪広告の掲載を一貫して要求し、謝罪広告の掲載ができないなら相当の誠意を示すように要求したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実に、前記の本件クレジット契約申込に対する拒絶の通知が被告シャープファイナンスより封書で原告宅に郵送された事実を総合して考慮すると、本件不法行為によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、一〇万円が相当である。

2  弁護士費用 一万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑み、被告シャープファイナンスに対して賠償を求め得る弁護士費用は一万円が相当である。

七  結論

以上の次第であるから、原告の被告両名に対する本訴請求は、被告シャープファイナンスに対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき一一万円及びこのうち弁護士費用を除いた一〇万円に対する訴えの変更申立書送達の翌日であることが記録上明らかな平成元年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告シャープファイナンスに対するその余の請求、被告信用情報センターに対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河田貢 裁判官 杉江佳治 濱谷由紀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例